住宅街に家を建てると問題となるのはプライバシーを守ること。それを守るためには、外壁を高くしたり、窓を小さくする必要があり、生活に圧迫感を生み出してしまう。そのためプライバシーを守ることと心地良い空間を生み出すことは両立しにくい。だが和泉屋勘兵衛建築デザイン室が手がけた家「方庵」では、その2つを両立させる素晴らしい住宅を実現させている。
家が建てられたのは神戸市の住宅街。多くの家が建ち並ぶ住宅密集地で、隣の家がすぐ横に建っているような場所だった。そこに建てられたのはミニマルな印象を与える家。木造2階建ての家は白色にまとめられた箱型の建物となっている。通りから眺めると見えるのは白色の壁のみ。正面部分に窓が無く、中の様子を全くうかがえない。そんな外観からは、プライバシーが重視されていることがよくわかるだろう。
外からは閉塞的に見える家だが、中には開放的な空間が広がっている。リビングルーム、ダイニングルーム、キッチンは1か所に集められており、1つの部屋となっている。このような空間はただ横に広いだけではない。そこは吹抜けになっているため、天井も高い位置にある。そのため、ここでは閉塞感ではなく開放感を感じることができるだろう。
そんな家に設けられているのは2つの庭。外壁が家と庭を覆っており、外からはその存在がわかりにくくなっている。その1つには木が植えられており、住宅地での生活に小さな自然を感じさせてくれる。もう1つの庭にあるのは砂や岩などで作られた枯山水。それはミニマルな外観の家と美しいコンビネーションを生み出し、ここでの暮らしに落ち着きを感じさせてくれるだろう。
このような庭が果たすのは心地良さを生み出す役割。吹き抜けのある部屋は2つの庭に挟まれている。そこには大きな窓が取り付けられており、室内からでも庭の緑を楽しむことができる。また家の外が見えることで、壁に覆われた場所であることを忘れさせてくれる。そして太陽の光が庭へと射し込み、その明かりが建物の中を照し出す。そのため、家が外壁に覆われているにもかかわらず、明るく開放的な空間で生活することができるのだ。
都市の生活で問題となるのは、外からの視線を遮ってプライバシーを守ること。だが、それを考えると心地良い暮らしを犠牲にすることになる。だが本住宅では、プライバシーを守りつつ、明るい空間の中で、開放感を得られる空間を実現している。このような家では、都市生活のストレスを感じることなく心地良い暮らしを送れるに違いない。